KOBE鉄人28号モニュメント
完成した時には「心が震える」感覚を経験
何もかもが手作り感満載です。そうです、汗くさくて・人間味があって、
私たちはそんなことが大好きな「町工場」です。
2007年の春頃
大切に梱包された箱を取り出し
野島:ちょっと、これ見て欲しいねんけど
金銅:何すかこれ!鉄人28号の模型?こんな興味ありましたっけ?
野島:これを50倍にって・・・・・実物大モニュメントの依頼が・・・
金銅:えーーーーーーーマジっすか!!
そこから全てが始まりました。
少し変わった「町工場」
私たちは、(株)北海鉄工所臨海工場の野島と金銅です。ひょんなことから、全く年代の違う2人が同じ会社で働き、今まで様々な彫刻家の作品や商業施設のモニュメント、東京・大阪の某テーマパークでのシンボルモニュメントやサインとパレードカー、ヨーロッパブランド内装金物など、ありとあらゆる作品や製品を収めてきました。
では、2人が所属する会社はどんな会社かというと、中小企業の「町工場」。少し変わった「町工場」です。「鏡板」と呼ばれるタンクの蓋の国内トップシェア65パーセントで、純国産ロケットの燃料タンクを製造して「プロジェクトX」に出たり、国内外の鉄道車両の部品を生産し、N700型新幹線にも採用されたり、圧力容器と呼ばれるプラントの部品を制作したり。300トンから6000トンの国内最大級の油圧プレスを使い、鉄やステンレス他さまざまな材料を3次元に曲げ組み立てるといった職人さんの会社です。いい風に言えば「下町ロケット」に出てくる会社に似ています。(言いすぎですが・・・・・)
そんな会社で十数年モニュメントや様々な製品を作ってきました。日本でも数少ない工場です。
職人による手作業で完成へ
ある日、鉄人28号の原寸大モニュメントの話がきました。2人と工場全員が出来るのかな?と不安に思っていました。同時期に東京では「等身大ガンダム」が注目を浴びていました。有名企業がスポンサーになり、企業も1流広告代理店、制作も有名展示会社といった、すごい金額をかけたプロジェクトでした。
比べるものではないですが、一方の鉄人は地元の皆様や企業からの募金を中心に、地元のNPO企画のもと進められ、製作も岸和田の「町工場」で鉄板1枚1枚丁寧に曲げながら溶接され、200あまりのパーツを現地に持ち込んで組み立てられました。制作コストを下げるため試行錯誤しましたが、結局、細かなパーツは全て職人によるプレス機での手作業となりました。
様々な難問を超えて出来た鉄人
何もかもが手作り感満載です。そうです、汗くさくて・人間味があって、私たちはそんなことが大好きな「町工場」です。全てがドラマのように上手くいって完成した訳ではなく、ここでは言わないですが、様々な難問を超えて出来た鉄人です。さすがに、完成したときには「心が震える」感覚を経験しました。
私たち2人はあまり表に出ることは考えず、裏方として色々な計画に参画することを好んでいます。裏方に徹し、「日本の町工場のものづくり」のすばらしさと技術の伝承ができるように勤めています。そして、これからも、色々なところで珍しいものがあればひょっとしてこの2人が関わったのかもしれません・・・・
製作、設置工事秘話
計画・設計に約1年、工場製作及び現場組立・設置工事に約1年と、この間弊社もKOBE鉄人PROJECTの一員となり震災復興に企業として少しでもお役に立てればと言う気持で全社上げてのプロジェクトとなりました。建設資金が寄付金による資金集めの為、資金がなかなか集まらず、PROJECT事務局と神戸市と協議を重ね、目標金額未達の状況での製作スタートに踏み切った。寄付金募集の広告、ポスターだけでは具体性に欠け、本当に作らないと訴えが弱いと地元住民と神戸市が判断され弊社へ依頼に来られ、弊社社長との直談判の末、スタートに踏み切りました。現場設置工事を施主様の意向で、全国及び海外へ広く震災復興のPRで発信していく為、製作及び工事工程過程を公開して撮影等するということで非常にプレッシャーがかかる工事となりました。
設計構造計算段階で最初直立の鉄人を予想して進めておりましたが、意匠のデザインコンペが行われ、模型・造形作家速水仁司様のデザインで天に向かって鉄人パンチをする力強い「ファイト一発ポーズ」で決まり、再度構造設計構造計算を行いました。模型のサイズは実物の1/50のサイズ(高さ30cm)で形状を確定させる為、3D解析展開して忠実に模型意匠を実物大に再現させるのに非常に苦労しました。特に顔の表現は難しかった。
設計当初は重量オーバーによるNGや基礎工事費の拡大等の問題が発生、何度も検討を重ねた末、意匠板を製作可能な限り出来るだけ薄くして軽量化を計り、基礎も杭打工事と併用できる深層杭基礎工法を採用し、技術面と予算面共に最適の工法で設計しました。意匠板のパーツ数は約700枚を1枚1枚所定の形状にプレス加工し、骨組に貼り合わせ組立していくという気が遠くなるような作業で、実物大に完成してくると模型では判らない微妙な曲線表現が必要になり、それは1枚1枚職人が手作業で加工していくという、機械では出来ない職人技があります。現場組立工事における大型構造物の組立で、両足・胴体の3体を大型レッカー3台で其々吊り上げ微妙なレッカー操縦をしながら空中で背骨鉄骨と両足鉄骨のボルト締付作業は非常に緊張した瞬間でした。
1/50模型(作家:速水仁司 作)
意匠設計(3D設計)
構造設計(塔状鉄骨構造)
企業としての「新しい価値の創造」
今回弊社がこの神戸鉄人28号モニュメントを建設させて頂き、企業として震災復興で社会へ貢献出来たことが企業としての「新しい価値の創造」となり、財産でもあり大変うれしく思っております。戦後1960年代にアメリカで都市再開発政策の中で都市に芸術作品が設置されるようになりパブリックアートという概念が生まれ、日本でもまちづくりで導入されるようなり、バブル成長期には「彫刻のある街づくり」で弊社でも各地で有名な作品を多数製作設置させて頂きました。芸術性があり景観などにも配慮され人々へ潤いを与え、都市の魅力増進が大半の目的でありましたので、具体的な経済効果などは判断しにくい側面がありました。
しかし今回の神戸鉄人28号モニュメントを設置したことにより、国内外からの観光客やアニメファンも訪れるようになり、神戸長田の知名度が向上し、経済効果が新聞でも発表され、神戸の新しい観光拠点として確立されるようになり、地元商店街の賑わいも戻ってきました。
昨今各地域で甚大な災害が多発してきております。企業として自社の技術を活用して防災減災に関する社会貢献も視野に入れてこれからも積極的に活動して参りたいと思います。
モニュメント概要
鉄骨構造
意匠板:耐候性鋼板t3.2mm
直立時設定:18m(高さ15m 30cm)
総重量:50t
基礎重量:150t
足の大きさ:4m
こぶしの大きさ:直径1.7m