Creator製作者の想い

金沢21世紀美術館 
パビリオン「まる」

4者の完璧までの
スクラムにより制作できた

「まる」は金沢21世紀美術館の開館10周年を記念し、
当館の設計者である妹島和世 + 西沢立衛 / SANAAが計画・設置したパビリオンです。

パビリオン「まる」概要

妹島和世 + 西沢立衛 / SANAAによる金沢21世紀美術館のシンボルとして、2014年の開館10周年を機に、新たな象徴として計画された「まる」は、直径1.8mのステンレスの鏡面の球が16個集まって全体とし1つの球となる形のオブジェで、美術館の新たなランドマークとなっています。

製作方法

実施設計・製作にあたっての資料は3D図面と1/10の模型のみででした。その中から設計者の意図を読み込み、実現可能な製作図への変換が必要となります。この作品の場合は美しく磨かれたオブジェであり、溶接構造体でもある2面があり、相反する側面を充分に満たすのは極めて困難です。SANAA+Arup+㈱竹中工務店+㈱北海製作所の4者が何回も協議を重ね最善の方法を選択しました。

まずは16個の半球を2個製作し実作と同等の溶接施工と鏡面仕上を施し、実作に向けてのアプローチとしました。結果、半球1個に対し5つのパーツで分割+プレス+溶接+仕上げの施工手順が出来上がり、鏡面加工は設置まで全体2回バフ研磨、現地でも2回プラス最終全体バフ研磨という施工手順を計画しました。通常のオブジェでもここまで繰り返し研磨作業する事はほとんどなく、最後まで気の抜くことが出来ない作品であることが予想されました。

製作方法 製作方法

工場製作

現地までトラックにて運搬する上で、球体の分割方法は7分割で搬入することとしました。出来るだけ施工環境の良い工場内で溶接や一次仕上を行いました。また、事前に3DCADを用い立体的に球同士の形状や球と柱の結合部など図面化しにくい箇所の検討を積み重ね、組立用治具や切断用治具の考案にかなりの時間を費やしました。期中難易度の高い箇所に於いては、部分モックアップを製作し現物にて検証し設計者に了承を得るに至りました。

建築工事・基礎躯体

「まる」の設置場所は既存地下駐車場の上に設置されているため、駐車場躯体が損傷しない様に基礎工事を進めることが求められました。一定掘削深度を定め重機にて掘削し、最終床付は機械に依らず、手堀作業にて対応しました。基礎躯体は幅3.2m、高さ2.3mの断面形で五角形で構成された特殊形状であり、難易度が高く、躯体に埋め込まれるステンレスアンカーセットには高い精度の確保が必要でした。

躯体工事関係者と施工手順を打合せ、互いの工事領域を存分に発揮することで、高いコンクリート躯体品質精度の確保を達成し、オブジェ本体設置工程へスムーズに移行する事ができました。

工事全体を通して現場での施工期間は、美術館の通常開館であり、一般市民、観光客が非常に多く利用されているため、公衆災害のリスクが大きい環境でしたが、工事車両の搬出入等の時間的配慮を踏まえた安全対策の徹底と、社内内勤部門と工事協力会社との連携により、無事故無災害で竣工を迎えることが出来ました。

建築工事・基礎躯体

オブジェ本体設置

オブジェ設置工事はお盆開けの8月17日からの開始となりました。真夏の炎天下での工事となるため、熱中症対策には万全の対処が求められました。工事時間は早朝から行い、酷暑の時間帯は避けることとしました。また、足場上によしずで日陰をつくり対策しましたが、何分鏡面のため太陽の照り返しがきつく大変でした。

しかし、工場で仮組作業を行っているので作業はスムーズでした。心配された溶接施工もあらゆる事例に対処可能な作業足場のおかげで順調に進み、ビートの形状や非破壊検査結果も順調に行えました。溶接しては検査を繰り返し、ビートを仕上げて鏡面バフ施工の工程を繰り返し、現地で「まる」の形状が解るようになるまで約3週間を要しました。そこから柱の溶接、検査、仕上げと全ての溶接箇所を記録しました。ようやく姿を現した「まる」ですが、そこから最終全体バフ仕上げを行い、全体の仕上がった姿を見せたのは着工から約1月半後でした。

気になる個所を探しては直していく・・・、終わりのない作業が続きました。足場が外れ、初めて目にした「まる」の全体像は宙に浮いた飛行船のようでもあり、工事にかかわった全員、陽が沈むまでずっと見つめていました。材料を切り出してから約1年を要した作品の完成形でした。

オブジェ本体設置 オブジェ本体設置

おわりに

美術品であり、建築構造物でもあるパビリオン「まる」は私達がかつて関わった作品作りの中でもとりわけ特別なものとなりました。設計者SANAA+構造設計Arup+㈱竹中工務店+㈱北海製作所の4者が完璧なまでのスクラムを組み、製作できたのが良かった。お互いの信頼関係と熱意があってこその作品です。

さらに金沢21世紀美術館という空間が、または金沢という美術と工藝が融合した文化をもつ地域がそうさせたのか、このプロジェクトを通して、金沢で製作・設置に関わった工事関係者に素晴らしく充実した時間を与えてくれました。これからも永遠に金沢の景色を映していってほしい。

おわりに

建築概要

設計監理 設計:妹島和世 + 西沢立衛 / SANAA
構造:Arup
監修:金沢市土木局営繕課
施工 建築:(株)竹中工務店
オブジェ製作:(株)北海製作所 
※現在、(株)北海鉄工所
規模 建築面積:26.38㎡
高さ:3.96m 幅:6.36m
主体構造:ステンレス製
仕上げ:鏡面仕上げ 外面♯600バフ仕上 内面・柱 ♯400バフ仕上

Contact

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072-438-4044

モニュメントファクトリーホッカイ
(株)北海鉄工所 リンカイベース・アンド・ラボ内
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